スイッチ

朝7時、駅のホームのベンチが空いていたので腰を下ろした。次の電車が来る前に、時計をちらちらと気にしながらあんまんを頬張る。二つに割ったあんまんからはほかほかと湯気が立ち上っている。一度に食べるとやけどしかねない。

働くようになって、イベント現場の仕事の朝は決まってあんまんを食べている。イベント仕事の朝は早く、しかも現場に入るなり準備や接客が待っているため寝ぼけてはいられない。食道に糖を擦り込んで身体を叩き起こすのだ。決して良いことではないと分かっていても、スロースターターな私の身体を起動させるにはこれが一番手っ取り早い。

高校の近くにあったローカルなコンビニには50円あんまんなるものがあった。肉まんやピザまんもあったのだろうか、あんまんばかり食べていたのであまり覚えていないけれど、普通のあんまんより一回り小さくて、でも50円であんまんの甘さと温かさを堪能できるのは高校生の懐にはとてもありがたかった。

あのコンビニ、まだあるのかな。何せジュースが150円で買えない時代、店はあっても50円あんまんはもうないのだろうな……遠い目をしながら100円でも買えない令和のあんまんを噛み締めた。

「番茶がよく出たから、熱いお茶を飲んでいらっしゃい。体が、あたたかになるから」

ほうじ茶のペットボトルを傾けながら、頭の中で小川未明の「ある日の先生と子供」を誦じる。コンビニにもホットのお茶が並ぶようになったら冬は近い。熱いお茶が身体を駆け巡ると、なるほど、全身がぽかぽかしてきた。

木枯らしに縮こまっていた身体を少しだけ伸ばして、仕事のスイッチを入れる。ベンチを立ち、ホームの列に並んだ。

コメントを残す