コンビニに寄ったら、ホットココアが100円で売られていたので思わず手を伸ばしました。連日の残業で思考回路が停滞気味のままオレンジのキャップを捻ると、ほわっ、と小さな湯気が出ました。
冷え切った手を温めながら久しぶりにココアを一口飲んだ瞬間、ちょっとしたことを思い出しました。「ああ、そういえばあの頃の私はココアを飲んだことがなかった」
昔から、我が家にココアという飲み物はありませんでした。物心ついた頃には兄は既に高校生でしたし、父母はコーヒーを飲んでいました。ココアという飲み物の存在すら認識していたか怪しいところでした。
小学生の頃だったでしょうか、あれは確かマラソン大会でした。手足を真っ赤にしながら寒い寒い畦道を走り抜けたご褒美にと、温かいショート缶のココアが配られたのでした。
何だこれは。飲んだ瞬間から口の中を覆う膜。香ばしく甘い香り。舌の上を流れるときの妙な粉っぽさもそれまでに体験したことのない感覚で、なんだか贅沢な味のように感じました。家に帰るなり母にココアをねだったのは言うまでもありません。
ようやく本領を発揮してきた冬の冷たさと、しばらく忘れていた粉っぽいココアの味。ふっ、と私を20年前に引き戻したのでした。
