
ハトの巣を壊した。
私は週末にシェアオフィスの管理を任されていて、週に1、2日はオフィスに通う。仕事は日常的な掃除や郵便物の受け取りなど、入居者がやらないちょっとしたことをやる程度で、あとはただそこに居て安心させるのが私の主な役割になっている。
昼、食事を摂って帰ってきた入居者が「ハトが巣を作ってますね」と顔をしかめながら教えてくれた。なるほど、階段に小枝が散らかっていたのはそのためか。強風のせいだと思い込んで朝から地道に拾ったけれど、見ればたった2〜3時間でまた散らかっている。「さっきもメスのハトが来てましたよ。困りますよねえ」
ハトが住み着いたら日々の楽しみができて良いじゃないか。卵が孵ってピーチクパーチク言うのをみんなで眺めよう。しかし入居者が顔をしかめる理由が分からないではなかった。頭上に作られた巣からフンが落ちてくると、廊下は汚れ、来訪者に降りかかってくることも予想される。ハトは人間ほど潔癖ではないので、知らない虫や菌を持ち込む可能性だって十分にあった。
ボスに報告した結果、「明日にでも様子を見に行くから、とりあえず今ある巣を撤去してくれ」とのことだった。オフィスに困りごとが起きたときは私が対処する。そのために私はいるのだから。
巣の出来はまだ3割程度だろうか。電力メーターから伸びる余ったケーブルを器用に絡めて、その上に枝を積み重ねていた。これだけの枝をどこで見つけてきたのだろう。何度往復すれば居心地の良い巣が完成するのか。卵を産んで孵して育てて、まだ大仕事はこれからだというのに。想像するだけで胸が痛んだ。
親ハトが不在だったこと、巣が未完成で卵も産んでいなかったことが私にはせめてもの救いだった。ごめん、ごめんと口の中で繰り返しながら枝をごみ袋に突っ込んだ。
やむなく何かを壊すとき、期せずして何かを殺してしまったとき、この気持ちはどうして収めればよいものか。自分の意志でそうするならまだ割り切れるものの、もっと良い方法があったのではないか、相手にも暮らしがあったのではないかと己を責める想像ばかりが脳内に広がる。
これが仕事だから、私たちにも生活があるから、鳥にも巣を奪ったり壊したりするやつだっているし……苦し紛れの言い訳をフル回転で考える。このために人間の頭は大きいのかもしれない、と思った。