一円玉を拾う

 

終電までもう時間がないぞ、と早足で歩いていたところ、一円玉を拾いました。あっ、と目に留まってから数歩通り過ぎましたが、くるっと踵を返して立ち止まり、自分でも驚くほど丁寧に一円玉を拾いました。さらに数歩先にはポン引きの兄ちゃんがいましたが、構わずに拾いました。兄ちゃんは私のことを見ていたでしょうか。私は敢えて兄ちゃんを見ませんでした。

スープの底に残るごまや、価値ごと道に捨てられたような一円玉を見ると、どうも他人事に思えないというか、いたたまれない気持ちになるのです。ごまや一円玉を拾う姿はときにみすぼらしく感じられるものですから、なるべく人目を避けてそれをするようにしていますが、どうもやめる気にはなれません。

さて困るのはこの後です。拾うことが目的であって、一円玉を私のものにすることや使うことが目的ではありません。拾ってしまった一円玉をポケットにしまうのも変な気がして、私は拾ったときのまま一円玉をつまんだ状態で電車に乗りました。仕事始めの終電はいつにも増して空いていて、一円玉には誰も目をくれませんでした。

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