電車を乗り継ぐと、目の前にうさぎがいました。70歳ぐらいのおじいさんが、当たり前のように抱えて座っていたのでした。
うさぎは、みぞれというかごま塩というか、黒髪に白髪が混じった過渡期のような毛色で、まん丸い目は濃い赤色をしていました。そうだった、うさぎの目は赤いって幼稚園で教わったな、と思い出しました。ここで期せずしてうさぎと対面するまで忘れていたことでした。
うさぎは居心地悪そうに脚をバタつかせておじいさんを困らせました。むずがるうさぎよりおじいさんのほうがよっぽど電車の空気に敏感で、おじいさんは目の前に立つ私や隣の人の様子をちらちらと窺いました。私は迷惑を被っているわけではありませんでしたから、気にかけてくれるならそれだけで構わない、と思いながら見ていました。萎縮しなくてもいいんだよ、という思いをどうにか伝えようと試みました。
そうこうしているうちにおじいさんはそそくさと席を立ち、次の駅で逃げるように下車していきました。
一人なのに「かわいい」と呟いてみたり、遠くを見ながら口角を上げてみた私なりの奮闘は意味があったのかなかったのか、それすらも分かりませんでした。