木の話

あるところに、一本の木が立っていました。いつからあったのか分かりませんが、若いながら幹のがっしりとした広葉樹でした。昼には小さな木陰をつくり、夜には数羽の鳥の寝床として役立ちました。

木の、地面から1メートルぐらいのところに、半端な枝が伸びていました。すらりとまっすぐ育ったのが木の魅力でもあったので、多くの人が口々に惜しい枝だと言いました。木自身も、この枝にだけ雷が落ちてどうにかもげてくれないものか、と時折密かに祈ったりしました。

けれど少年はその枝がお気に入りでした。家から持ってきたロープと板でブランコを作りました。おやつの駄菓子もビニール袋に入れて枝に掛ければ、うっかり蹴散らすこともありませんしいつでも食べられます。母に怒られた日は枝に残る葉っぱが風にそよぐのを眺めて一日をやり過ごしました。朝も夕も、少年はこの枝とともに過ごしました。

それを見た大人も、だんだん枝を気に入るようになりました。木陰で休むおじいさんは杖を掛け、子どもたちは鉄棒代わりにし、木陰がおばさんたちの集会所になる日は話が終わるまでひたすら買い物かごの番をしました。

木は人気者になって毎日が楽しくなりました。賑やかになってきた頃から少年はだんだんと来なくなってしまいましたが、それと入れ替わるようにたくさんの人が自分の元へ集い大切にしてくれるので、木はいつも良い気持ちでいられました。

その日は朝からとても天気が良かったのですが、どういうわけか風が強く吹いていました。洗濯物が心配になったおばさんたちは家へ帰りました。風がだんだんと雲を吹き寄せ空模様が怪しくなってきた頃、お母さんたちが子どもたちを呼びに来て、散り散りに帰っていきました。おじいさんはヘルパーさんが来てくれる日だったのでもとから来ていませんでした。

木は、久しぶりにひとりぼっちになりました。やれやれ少し働きすぎたな、と枝をパキパキ鳴らしました。雨の匂いか土の匂いか、少し湿った感じの匂いがあたりに立ちこめたので、木はいつものように全身で雨を浴びるポーズを構えました。そのとき、

がしゃーーーん

何がどうなったのか想像もつかない、耳をつんざくような音と光と振動があたりを包みました。落雷でした。

雷は、あの木に落ちました。野原に一本ぽつんと立っていた木ですから落雷はいずれあることで、無理もないことでした。

木は裂けて焦げました。枝だけ残ればいいのに、と思いましたが枝こそ真っ先に折れてしまいました。枝に雷が落ちればいいなんて願わなければよかった、とみんなに少し申し訳ない気持ちになりました。それも今となっては仕方のないことです。初めに枝を気に入ってくれた少年のことを思い出しながら、木はしばしの休息に入ることにしました。

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