Nori-o

昔々、ある浜辺の町におじいさんとおばあさんがいました。子らは早々に独立し、末の子も東京の大学に入ってからは実家になど寄り付きもしなくなったので、家の前の浜で採れる岩海苔を売って小さな家庭を支える毎日を過ごしていました。

ある日、おばあさんがいつものように佃煮を炊いていると、近所で見たこともない子どもができあがった佃煮をつまみ食いしに来ました。「こら」と叱ろうとしましたが、その子があまりにもおいしそうに食べるのでおばあさんは見とれてしまいました。家のお迎えが来るまでここで海苔を食べていなさい、ということになり、暫定的に「のりお」とその子を呼ぶことにしました。

のりおは何も喋りませんでした。ただにこにこと海苔を食べているだけでした。それでも、おばあさんはのりおをいたく気に入りました。浜を引き上げてきたおじいさんにものりおを紹介すると、おじいさんものりおをかわいがるようになりました。

2週間ほど経ったでしょうか、3人で昼ごはんを食べていると、のりおが突然「あっ」と声を上げました。縁側の外を見ると、真っ赤な口紅を塗った女が香水の匂いを漂わせて立っていました。この世のものと思えないような、般若より険しい顔をしていました。

女はわけのわからない言葉を早口でまくしたて、見た目からは想像もつかない力でのりおを引きずり去っていきました。おじいさんとおばあさんは女を止めよう、のりおを捕まえようと思ってはいたのですが、あまりにもあんまりな出来事に身体が動きませんでした。

おじいさんとおばあさんの耳の奥では、いつまでも「あっ」が繰り返されていました。二人は、もう岩海苔を採らないことにしました。

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