引退したらたくさん旅行へ行きたいね、行ったことのない北海道へ行ってみようか、と言っていたくせになかなか父が引退しないものですから、母が「もうお金も体力もないから北海道には行けない」と拗ね始めたのがきっかけでした。私は、積み残しだと分かっているものを積み残したまま生涯を終えるのはナンセンスだと思い、航空券と宿を手配しました。
新千歳空港から1時間半ぐらいでしょうか、小樽への道程は電車に揺られていきました。古いバラックの向こうに青黒い海がひたすら広がっていて、まるで銚子のようでした。
小樽の駅を出ると、まっすぐ伸びた広い中央通りの突き当たりに海が見えました。高い建物がない小樽の空はとても広く、歩道のブロックの白がよく映える青色でした。その手前には小樽運河が横たわっていて、石蔵や道路のすぐ脇をタプタプと流れていました。私は運河を見て、地元に流れる黒部川という川を連想しました。川と付くけれどあれは醤油工場と江戸を繋ぐ運河なのだ、と社会科の授業で習ったことを振り返りました。
運河クルーズのおじさんが言うには、小樽からは毎年3,000人も人口が減っているということでした。たしかに道路の舗装はガタガタで、とても潤沢な資金繰りができている街とは言いがたい様相でした。こんなに素敵な街なのに勿体ない、と思いました。私ならこんな街に暮らしてみたいのに。そう口に出すのが早計かどうか判断がつかなかったので、思うにとどめておきました。
