
「事あるごとにいつも川に行っていた」とよく話すのですが、具体的にどんなときに川へ行っていたのか、今となってはあまり思い出せずにいました。
そうか。一人になりたいときに川へ行っていたんだった。田舎には家しかいるところがなかったから、出掛けるときは大抵家族と一緒だったから。何も考えたくないとき、一人で歌いたいとき、川へよく行っていたのを思い出しました。
お正月ムードのお茶の間とテレビから逃げ出し、MDプレイヤーを持って出掛けた元日の午後の河川敷はまるで夢の中を地で歩いているようでした。川の音と遠くを走る車の音が耳を占領して、他に何の音もしなかった。西陽で視界がヤマブキ色に染まっていて、後ろからジョギングで私を追い抜く人と、犬の散歩でこちらに向かってくる人がすれ違う。季節のわりに風が暖かくて、イヤホンをつけると何度も聴いた中村一義のアルバムが流れてくる。ただ、それだけしかなくて、それだけしかない世界で、現実から遮断されたように感じたことを強く覚えています。
今はそんなことをしなくても家でも街でも一人になれるのだけれど、あの現実から遮断された世界が恋しくて、無性に川へ行きたくなるのかもしれません。