うちの近所に「タンタン」という小さな店があります。それは静かな住宅地のど真ん中にある古い中華料理屋さんで、通りの奥にあるせいか、音も匂いも表通りには届いてくることがありませんでした。店に入っていく人も店主と思しき人の他に見かけたことなどなく、ちょっと焼けた看板と1つ2つ割れた電飾はその店の心許なさを増長しているようでした。
昨日はいつもより少し早い帰宅だったので、タンタンはまだ看板に灯をともしていました。よし、たまには行ってやらんでもないかな、と私はいつもの通りから一本脇道に逸れ店内の様子を覗きに行きました。
店の中の光景は、私の予想を大きく覆しました。席数こそ少ないものの、カウンターもテーブルも夫婦や常連らしいおじさんであらかた埋まっていました。席を詰めるなど都合してもらわない限り、私がお邪魔する席などありませんでした。料理を待ちながら新聞を読んだり会話をしたり、そこに座る誰もが居心地の良さを感じている様子でした。
店にしてみれば失礼な話ですが、私はすっかり狐につままれたような気分でした。そんなに、そんなに良い店なのか。これまで大して興味もなかったはずのタンタンが妙に気になりだしました。悔しい、いつかここに入らねば気がすまない。今、世界で一番食べたいものはタンタンの中華料理、ということに相成りました。
