ふと、荒原先生のことを思い出しました。高校の理系クラスに崇められていた伝説の数学教師でしたが、文系クラスの私にはそんなことは関係なく、むしろ歩き方がどうにも変で気になっていました。前に進むというより上に浮き上がるような歩き方。月面歩行の小さい版みたいな、ヒョコヒョコした歩き方。
私は荒原先生が、いや荒原が大嫌いでした。めったなことでは人を嫌わない私ですが、とにかく嫌いでした。
剛毛の天然パーマで、先のすぼまったジャージを履いて、時代遅れのでかいメガネをかけた青髭のおっさんがニヤニヤしながらヒョコヒョコ歩く。見るたび嫌気が差しました。嫌気しか差しませんでした。
嫌気しか差さないおっさんがテニス部の顧問なものだから、副部長の私目掛けて歩いてくるのです。ヒョコヒョコと。
嫌気しか差さないおっさんがテニス部の引率をするものだから、寒い朝に鼻水を垂らしながら(比喩ではなく本当です)怒鳴り散らして歩いてくるのです。ヒョコヒョコと。
鼻水もヒョコヒョコしていました。
絶対にああはなるまい、と心に固く決めてから干支がひと回り。奴の口癖だった「〜という状況」というフレーズが仕事の電話で無意識に口をついて出るたび頭を抱えます。そして昨日から続く腰痛に歩き方がおかしくなっていないか、気が気でないのです。
