「みんな俺がこう話をすると『濃厚な人生ですね』って言うけど、みんな何かしらあるんだよ」
グリーンカレーを食べる手が止まるほどスリリングでエキサイティングな半生を聞かせてくれたフミさんが、長い長い物語の最後に言いました。何言ってんだよフミさん、私は30年近く生きてきて頭に散弾銃突き付けられたことはまだないよ、そんなの私の倍以上生きてきたうちの両親だってないだろうし…と言いかけた瞬間、脳裏をよぎったのはうちの会社の外部顧問を引き受けてくれている敏也さんと飲んだ時の一言でした。
「俺は自分のことすげえ普通だと思ってるよ」
世界規模で評価を受けていて、会うたびに面白いアイディアを分けてくれる第一線のクリエイティブディレクターが自分のことを「普通」と言い、居眠りばっかりしているくせにアイドルの話の時だけ目を輝かせて長々と持論を展開するうちの後輩のことを「あいつすげえ」と言う。
あの時も、私は反論しそうになる自分を抑えて考え直し「いや、たしかにそうかもしれない」と思ったのでした。
ハチ公前の交差点に集まるものすごい数の人々はみんなそれぞれ他人が想像だにしない歴史の上を歩いてきているはずで、けれどもそれを振り返ったり見直したりせずまるで何もなかったかのように青信号を渡っている。その場に埋もれて消えていくたくさんの逸話がある一方で、振り返ったり、見直したり、自分の足跡として認められた物語だけが、人の引き出しになっていくのかなあ。
実際はそこまでちゃんと考えてなかったけど、たぶんそんな感じ。引き出しってそういう事か!とか、みんなもったいないなー、とか。思いました。
フミさんはいろいろな話をしてくれたけれど、私は初めて訪れたタイで食べた豚すね肉丼みたいなもの(調べたところ、カオカームーというのでしょうか)が衝撃的においしくて、それから年月を経て今はタイ料理をやっている、という話が一番好きです。フミさん、当時の写真をいまだに大切に飾っているんだもの。ごはんの写真を。写真立てに入れて。相当おいしかったんだろうなあ、私も食べてみたいなあ、と思いました。
人生を変えるごはん、ってとても素敵じゃないですか。
