小学4年生ぐらいの頃だったでしょうか、キーというクラスメイトがいました。菊池くんだから、キーです。キーはサッカーが好きで、アトピー持ちで、物腰の柔らかい男の子でした。よその小学校から転入してきたのですが、変に目立つこともなく、すぐクラスになじみました。
その頃の私は大人に囲まれ半ば一人っ子のように育ってきた(なぜなら兄と私は13歳離れていて、物心ついた頃には兄は既に高校生だったのです)ためやたらと我が強く、受け売りの大人の知識を振りかざし、クラスを取り仕切っていました。テストはいつも100点ばかり、運動は苦手でもそれなりにはできて、難しいことも知っている。今となってはこんなことを言うのも恥ずかしいですが、当時の私は先生にほめられ、周囲から尊敬の眼差しを集めるのが当然のように思っている節がありました。
(こんな書き方をするとすごく嫌なやつみたいですが、私にもちゃんと友達はいました。ありがたい。)
ある日の学級会だったでしょうか、キーがクラス全員の前でほめられました。勉強も運動も体格も平均的で、あまり前に出ようとしない、ごくふつうのキーが。あれは何だったかなあ、記憶が定かではないですが、本棚の整頓か花の水やりか、たしかそういったことを率先して行っていたキーを先生が見ていたのです。自分の担当でもないのに、誰に言われるでもなく、そして自慢したり驕ったりするでもなく、自然に気を配るキーの姿を。私にとってそれは衝撃でした。それまでの私は、ほめられよう、いいところを見せようと思って人のために働くことしか眼中になかったのです。キーはみんなの注目と拍手を浴びて、気恥ずかしそうに縮こまっていました。その後私もキーを見習って、黙って気を配ることにしよう、としばらく真似をしていましたが、思った以上に難しかったのを今も覚えています。
キーと私は特別親しくなることもなく、やがてクラスが別れ学校が別れ、今となっては疎遠になってしまいましたが、あの日の学級会と照れくさそうなキーを私は今も時折思い返しますし、キーの真似は未だにできないままです。
